健康診断や学校検診で
「心電図に異常があります」と言われると、
誰でも不安になるものです。
特に「左房負荷」、「左房拡大」
という聞き慣れない言葉だと、
心臓に何か問題があるのでは
…と心配になる方も多いでしょう。
しかし、ご安心ください。
心電図の異常には緊急性のないものや、
経過観察で十分なケースも多数あります。
循環器専門医が、心電図の「左房負荷」、「左房拡大」について
原因・症状・検査・受診のポイントや、
受診後の流れをわかりやすく解説いたします。
※本記事は診断や治療を目的としたものではありません。
※受診の判断材料や、理解を深める参考としてお使いください。
※検査元から受診指示がある方は、必ず医療機関をご受診ください。

この記事は、下記ページの続編となります。
よろしければ最初からご覧ください。
左房負荷・左房拡大の心電図、自覚症状は?
心電図で「左房負荷」、「左房拡大」と言われても、
自覚症状が全くない方が多く、
健康診断で初めて分かることも少なくありません。
ただし、背景疾患によっては
次のような症状が現れることもあります。
- 息切れ
- 動悸
- 疲れやすさ、倦怠感
- 胸の痛み
- 胸の違和感
経過観察の判定でも、
気になる症状があったり、ご不安、ご心配な場合、
早めに循環器内科・循環器科受診を検討しましょう。
✅健康診断の心電図で【異常なし】や【経過観察】…でも体調不良? それって病気?
心電図の左房負荷・左房拡大はなぜ起こる?|原因・背景
心臓の左心房(さしんぼう)というお部屋に、
何らかの理由で負担がかかっている状態を
「左房負荷」と呼びます。
「左房拡大」と呼ばれることもあります。
負荷の状態よりも、
左房内の電気の流れに障害があることを
反映している場合もあります。
以下のような原因が考えられます。
心臓弁膜症
心臓にある「弁」がうまく開閉しないことで
血液が逆流したり、
通りにくくなったりし、
心房に負担をかけている状態です。
心筋梗塞
心臓を栄養する血管(冠動脈)が閉塞し、
心臓の機能に影響を及ぼしている状態です。
心筋症
心臓の筋肉自体に病気があり、
心筋が薄くなり心臓のポンプ機能が弱っている
または厚くなっている状態です。
高血圧症
血圧の高い状態が持続することです。
心電図の左房負荷・左房拡大とは?|ざっくり解説
心臓は、全身に血液を送るポンプの役割をしています。
血液は肺から戻り
まず左心房(さしんぼう)に入り、
次に左心室(さしんしつ)から
全身へと送り出されます。
この「左心房」に負担がかかっている状態が
「左房負荷」や「左房拡大」です。
心電図は、心臓が動くときに発生する
微弱な電気信号を記録する検査です。
心臓の部屋が大きくなったり、
負担がかかったりすると
この電気信号の波形に変化が現れます。
心電図の波形にはP波、QRS波、T波などがあり、
「左房負荷」、「左房拡大」の所見は、主にP波の形や幅が、
左心房の拡大や負担を示す
特徴的な変化として読み取られます。
左房負荷・左房拡大の心電図|受診前の確認ポイント
健康診断や学校検診の心電図で
左房負荷や左房拡大の結果を受けて、
ご心配があったり、症状がある方は
循環器内科・循環器科を標榜する
クリニック・医院への受診が推奨されます。
公式ホームページなどで、
医師プロフィールに
下記のような記載があるか
確認してみてください。
- ◇◇循環器学会 専門医 / 認定医 / 所属
- □□心臓病学会 専門医 / 認定医 / 所属
専門性の高い医師の診察を受けることで、
より正確な診断や
適切な方針の提案が期待できます。
受診の前に、一度クリニックや病院へ
お電話で連絡を入れておくのもおすすめです。
予約方法や、希望する医師の診療日を事前確認しておくと、
手続きや当日の流れがよりスムーズになります。
とくに専門外来では、診察日が特定の曜日に設定されていたり
担当医が限られている場合もあります。
事前に問い合わせておくと、待ち時間の短縮や、
予約に関するトラブルを防ぐことにつながります。
心電図、左房負荷・左房拡大|受診後の流れについて
医師の診察の上で、
心電図の「左房負荷」「左房拡大」の所見が
- 対応が必要な重要な異常なのか
- 経過観察で問題ない所見なのか
を判断するため、
通常、当日あるいは2週間程度以内に
外来で可能な追加の検査となるケースが多いです。
※個々の検査については、後のセクションで解説いたします。
検査結果が出た後の主なパターン
1.経過観察となるケース
軽いもの:
「特に心配はないでしょう。
症状やお困り事があれば、またご相談ください」
念のため:
「○か月後に再診していただき、
もう一度確認しましょう」
頓服の相談:
「困った症状などが出た時に備えて、
必要に応じて頓服薬を処方しますね」
2.お薬による治療が始まるケース
心臓への負担を軽くするため、
血圧を下げる薬や不整脈の治療薬などが
処方される場合があります。
3.大きな病院や専門病院への紹介となるケース
より詳しい検査や
お身体に一定以上のご負担がかかる治療が必要な場合、
急性期総合病院や大学病院、
専門病院への紹介が行われます。
紹介状を持っての予約受診となり
CT・MRI・心臓カテーテルなどの
検査や治療計画が検討されることもあります。
まれではありますが、
緊急性の高い心臓のご病気などが疑われた場合には、
当日中の受診や、
場合によっては救急搬送が勧められることもあります。
もちろん、はじめから総合病院を
受診しても問題はありません。
ただし、効率の面では
あまりおすすめできない場合もあります。
大きな病院では、
専門外来の予約が取りづらかったり、
初診時に紹介状が必要だったりします。
また、待ち時間が長くなったり、
初診料が高くなるケースもあります。
一方で、地域のクリニックや医院なら
早めに受診できることが多く、
必要に応じて大きな病院への紹介状を出してもらえる
「病診連携」という仕組みも整っています。
そのため、まずはお近くの
循環器内科や内科のクリニックを受診し、
必要に応じて
専門病院を紹介してもらう流れの方が、
結果的に効率的な場合が多いです。
心電図、左房負荷・左房拡大で考慮される追加検査

安静時心電図12誘導
先の心電図と変化がないか、
新たな所見がでていないか?
などを再度チェックします。
胸部レントゲン検査
心臓全体の大きさや、
肺に水がたまっていないか
などを確認します。
心臓超音波検査(心エコー)
心臓の大きさ、動き、弁の開閉の状態を
リアルタイムで観察できる重要な検査です。
左心房が実際に拡大しているか、
弁膜症が関与していないかを確認できます。
痛みはなく、体への負担も少ない検査となります。
血液検査
心臓への負担を反映するマーカー(BNPなど)や、
糖尿病・脂質異常症といった
背景疾患の有無を調べます。
生活習慣の見直しや薬の選択を考えるうえでも
大切な検査です。
ホルター心電図(24時間心電図)
24時間日常生活を送りながら心電図を記録し、
通常の心電図では見つけられない不整脈
の発見に役立ちます。
スマートウォッチ心電図で左房負荷・左房拡大はわかる?
近年、スマートウォッチにも
心電図機能が搭載され、
「自分でも心電図をチェックできる時代」になりました。
実際に不整脈の早期発見に役立つことも多く、
医療の現場でも有用な補助ツールとして注目されています。
しかし、スマートウォッチの心電図では
「左房負荷」、「左房拡大」までは正確に判断できません。
これらの機器が記録できるのは基本的に
「Ⅰ誘導(1本の波形)」だけだからです。
左房負荷を判定する際には、12誘導心電図という
多方向からの波形情報が必要になります。
特にP波の形や幅、V1誘導の陰性部分など、
複数の誘導を比較して「左房負荷」、「左房拡大」と判定できるため、
1誘導だけで読み取ることが難しいのです。
スマートウォッチで得られた心電図から、
「P波が見にくい」「脈が不規則」
といった変化が見られる場合には、
不整脈(心房細動など)の
早期発見につながることもあります。
つまり、スマートウォッチ心電図は
“気づきのきっかけ”であり、
「左房負荷」、「左房拡大」を含む
心臓全体の状態を評価するには、
医療機関での12誘導心電図や
心エコー検査などが必要です。
もしご自身のスマートウォッチで
気になる波形や通知が出た場合は、
「こんなデータが出ました」と
その画面を見せながら、
お近くの循環器内科・循環器科を
受診・相談されるのがお勧めです。
医師が専門的な検査と照らし合わせて、
きちんと評価してくれます。
※執筆時点での情報をもとにしています。
※スマートウォッチの機能や医療機器認定は日々アップデートされていますので、
最新情報はメーカーや公式発表をご確認ください。
左房負荷・左房拡大の心電図|定義や基準など
このセクションは少し専門的な内容です。
ご興味があれば、
ぜひ読んでみてくださいね。
左房負荷、左房拡大とは?
左房負荷や左房拡大とは、
左心房にかかる圧や容量の負担が増える状態を指します。
心電図では、P波の形や幅の変化として現れます。
P波の前半は右房の興奮を
後半は左房の興奮を反映しているため、
左房に負担がかかると
P波の後半(左房成分)が変化してくるのです。
左房負荷、左房拡大の心電図所見
肢誘導IIでのP波
P波が幅広くなり、
0.12秒(3mm)以上になる。
これを「結節性P波」または
「僧帽性P波」と呼ぶことがあります。
胸部誘導V₁でのP波
P波は二相性(上向き→下向き)となり、
後半の陰性部分が広く・深くなるのが特徴です。
特に、次のいずれかに該当する場合は
左房負荷、左房拡大と判断します。
- P波陰性部分の面積が1mm²以上
- 陰性部分の幅が0.06秒(1.5mm)以上
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まとめ
- 「左房負荷」「左房拡大」は左心房に負担がかかっている状態を示す心電図所見。
- 自覚症状がない場合も多い。
- ほとんどのケースは経過観察で済みます。
- 症状があったり、不安な場合は、循環器内科・循環器科受診がお勧め。
以上となります。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

