健康診断や学校検診で「左室肥大」や「左室高電位」といった言葉を見て、
驚いた方も多いのではないでしょうか。
「何かの病気?」
「原因はなに?」
「子供でも起こるの?」
・・・と、不安になるのは当然です。
この記事では、循環器専門医の視点から、
これらの心電図所見の意味や背景、放置してよい場合・受診すべき場合について、
わかりやすく解説します。

この記事は、下記ページの続きとして書いています。
ご興味のある方は最初からどうぞ。
左室肥大、左室高電位の心電図と症状
実は、多くの場合は無症状です。
特に健康診断や学校検診で見つかるケースでは、
自覚症状が全くないことがほとんどです。
ただし、以下のような症状がある場合には注意が必要です:
- 胸の圧迫感や動悸
- 息切れや疲れやすさ
- めまい、倦怠感
これらの症状がある場合は、
左室肥大に伴う心臓の病気(心筋症や心不全など)が、
背景にある可能性もあります。
循環器内科・循環器科受診をご検討ください。
左室肥大と左室高電位はどう違う?
左室肥大(LVH)
心臓の左側(左心室)の筋肉が厚くなった状態を指す、医学的な言葉です。
左室高電位
心電図で、左心室に対応する波(R波など)が、
基準値より高く出ている状態のことです。
両者はよく似た概念で、
心電図上は重なる部分も多いため、
ほぼ同じ意味で扱われることもあります。
ただし、「左室高電位」と書かれていても、
実際に心臓が大きくなっていない(肥大していない)ことも少なくありません。
心電図、左室肥大・左室高電位の原因や背景など

左室肥大や左室高電位は、
以下のような原因で出現することがあります:
高血圧
長年にわたる血圧の負荷で、
心臓の筋肉(特に左心室)が分厚くなることがあります。
運動習慣のある方(スポーツ心)
定期的な運動で心臓が鍛えられ、
心筋が一時的に肥大することがあります。
異常ではない場合も多いです。
痩せ型の体格
胸の壁が薄いなど体格のため、
波形が実際よりも大きく見えることがあります。
心筋症・弁膜症などの病気
心臓の筋肉や弁に異常があると、
左心室に負担がかかり、
肥大や高電位につながることがあります。
年齢的な変化(加齢)
年をとるにつれて、
心臓にも自然な変化が現れることがあり、
波形に影響を与えることもあります。
子供さんや学生さんでも出ることがあります
特に成長期の体格変化や発達過程で、
一時的に心電図に高電位が出ることがあります。
つまり、異常とは限らないということです。
特に小学生・中学生・高校生の学校検診では、
**「体格の影響で出やすい波形」**がそのまま「左室高電位」と判断されるケースもあります。
放置?受診して精密検査?
心電図だけでは、
左心室の本当の大きさや厚さまでは分かりません。
そのため、以下のような場合は**一度、循環器内科、循環器科に受診され、
精密検査(心エコーなど)**をおすすめいたします:
- 医師から「左室肥大」と伝えられた
- 症状(動悸・息切れなど)がある
- 高血圧や家族歴がある
- 過去に心臓病を指摘されたことがある
- 小学生、中学生、高校生の場合、2次検査を勧められた
精密検査は簡単な超音波(エコー)や血圧測定、
場合によってはホルター心電図などです。
痛みもなく、外来で受けられます。
スマートウォッチ心電図で左室肥大・左室高電位はわかる?
左室肥大や左室高電位は、
心電図上のR波が高くなるなどの波形異常として現れます。
これらは波形の大きさや形を詳しく解析する必要があるため、
スマートウォッチ心電図では判定できません。
スマートウォッチの心電図機能で検出できるのは、
主に脈が速い・遅い・不規則といったリズム異常です。
つまり「脈がゆっくりしている」「乱れている」といった変化まではわかるかもしれませんが、
左室肥大や左室高電位といった波形異常を判断することはできないのです。
診断や評価には必ず病院やクリニックで行う12誘導心電図が必要となります。
スマートウォッチはあくまで、
日常的なリズムチェックのツールと考え、
ご不安がある場合は循環器内科・循環器科を受診、相談してみましょう。
※執筆時点での情報をもとにしています。
※スマートウォッチの機能や医療機器認定は日々アップデートされていますので、
最新情報はメーカーや公式発表をご確認ください。
左室肥大、左室高電位の心電図、基準や注意点など
ここからは専門的な内容となります。
ご興味のある方は続きをどうぞ。
心電図所見だけで、
左室肥大と左室高電位を完全に分類することは困難です。
心電図の波形と実際の臨床像が合致しない例も少なくありません。
求心性肥大と遠心性肥大
左室肥大には、高血圧症や大動脈弁狭窄症といった左室の**圧負荷に伴う「求心性肥大」と、
大動脈弁閉鎖不全症や僧帽弁閉鎖不全症などに伴う容量負荷に起因する「遠心性肥大」**の2つがあります。
求心性肥大では主として左室壁の肥厚がみられ、
遠心性肥大では左室壁肥厚は軽度で、主に左室腔の拡大(左室拡大)を示します。
2次所見について
左室肥大の診断はこれらの電位基準が中心ですが、
**肥大の進行に伴い、ST-T異常や左房負荷所見といった「二次所見」**を示すことがあります。
ST-T異常がある場合、狭心症や心筋梗塞との鑑別が重要です。
また、左軸偏位などの電気軸の変化も見られます。
臨床現場では、**電位基準に加えてこうした二次所見がある場合を「左室肥大」、
ない場合を「左室高電位」**と判定していることがあります。
左室肥大がさらに進行すると、ST-T異常もより顕著になり、
V5やV6誘導において、
**上に凸型のST低下から陰性T波へ移行する「ストレインパターン」**と呼ばれる波形を示すことがあります。
高血圧や大動脈弁狭窄症による求心性肥大や、肥大型心筋症では、
病勢が進行するに従ってストレインパターンを伴う顕著なST-T異常を呈します。
一方で、大動脈弁閉鎖不全症や僧帽弁閉鎖不全症など容量負荷に起因する遠心性肥大、
あるいは拡張型心筋症のように左室拡大が主体の例では、
ストレインパターンを示すことは稀です。
まとめ|「高電位=異常」とは限りません
- 「左室肥大」や「左室高電位」は、必ずしも病気とは限りません
- 症状がない場合でも、一度検査で確認しておくと安心です
- 小学生、中学生、高校生でも出ることがありますが、多くは体格的な要因です
- 不安な場合は、循環器内科、循環器科受診を検討しましょう
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!