健康診断や学校検診の心電図で、
「心房細動(AF)」や「心房粗動(AFL)」という結果を受け取り、
ご不安になった方も多いのではないでしょうか。
- 名前は聞いたことがあるけれど、原因やどれくらい危険なのか分からない
- 自覚症状がないけれど、本当に受診した方がいい?
- 薬やアブレーション手術などの治療は必要なの?
——そんな疑問や不安を感じるのは当然のことです。
今回は、循環器専門医が心房細動・心房粗動について、
ていねいに解説いたします。
※この内容は、医師による診察や検査に代わるものではありません。
※気になる症状がある場合は、早めに医療機関を受診してください。

この記事は、心電図異常に関するシリーズの一部です。
全体の流れを知りたい方は、下記の親ページからご覧ください。
心房細動・心房粗動の症状は?
心房細動・心房粗動に自体よる症状のや、
これらの不整脈によって引き起こされる心不全による症状などがあります:
- 脈の乱れ(不規則に感じる)
- 強い動悸(ドキドキが続く、突然始まる)
- 息切れ
- 胸の圧迫感や違和感
- めまい、ふらつき
- 疲れやすさ、体が重い感じ
中にはまったく症状がない「無症候性心房細動」の方もいますが、
症状の有無にかかわらず、
脳梗塞のリスクが高まる不整脈であるため、放置はされず、
循環器内科・循環器科への受診がお勧めです。
心房細動、心房粗動の原因や背景として考えられるもの
以下の原因や背景が考えられます。
- 高血圧
- 甲状腺機能亢進症(バセドウ病)
- 心臓弁膜症
- 心筋症
- 飲酒・ストレス・睡眠不足
- 睡眠時無呼吸症候群(SAS)
- 加齢(60代以降で急増)
- 家族歴
- etc
心房細動・心房粗動とは?簡単に説明すると…
「心房細動(AF)」や「心房粗動(AFL)」は、
いずれも心房(心臓の上半分)がうまく収縮しなくなるタイプの不整脈です。
健康診断、学校検診などで初めて耳にする方に向けて、
できるだけシンプルに説明します。
✅ 心房細動とは
心房全体がバラバラに震えるような状態で、
電気信号が無秩序に発生しているため、一定のリズムがありません。
指揮者のいないオーケストラのように、心房が効率よく動かなくなります。
✅ 心房粗動とは
心房内で同じ電気信号がぐるぐると高速で循環している状態です。
リズムはあるものの、非常に速く、
心臓に負担がかかります。
こちらは、電車が環状線を猛スピードで走っているようなイメージです。
✅ なぜ危険なの? 〜脳梗塞との関連〜
どちらの不整脈も、
心房が「血液を円滑に送り出すポンプ機能」を失ってしまうため、
血液が心房内で滞りやすくなります。その結果、
血のかたまり(血栓)ができやすくなり、
それが脳へ飛ぶと脳梗塞を引き起こす可能性があるため、
見逃せない不整脈です。
自覚症状がないケースでも、
心房内に血栓ができている可能性はあります。
✅ 頻脈性・徐脈性とは?
心房細動・心房粗動の中でも、
「脈の速さ」によって以下のように分類されます:
- 頻脈性心房細動・心房粗動:脈拍が速くなりすぎている状態
- 徐脈性心房細動・心房粗動:脈拍が遅くなりすぎている状態
これらは治療の必要性や方針を決めるうえで、
重要なポイントになります。
スマートウォッチ心電図で心房細動はわかる?
スマートウォッチの心電図機能は、
不整脈の中でも心房細動の検出を比較的得意としています。
日常生活の中で動悸や不規則な脈を感じたときに記録できるため、
病院・クリニックでの診察時に役立つこともあります。
ただし、病院で行う12誘導心電図のように、
「波形の異常」や他の心疾患まで詳しく調べられるわけではありません。
あくまで「きっかけづくり」として利用し、
正確な診断は医療機関で受けることが大切です。
スマートウォッチ心電図と病院・クリニックでの心電図の違いについては、
👇下記ページをご覧ください。
心房細動・心房粗動で受診前に確認しておきたいポイント
心電図で心房細動・心房粗動と指摘されたあと、
いきなり受診先を決めるのは迷うもの。
以下のポイントを事前に確認しておくと、より安心して受診できます。
✅ クリニックの診療科をチェック
まずは、受診を検討しているクリニックの「診療科名」を確認しましょう。
「循環器科」または「循環器内科」と明記されているかが重要です。
これらは、心臓病や不整脈の診療を専門に扱う科、
であることを意味しています。
✅ 医師プロフィールのチェックポイント
ホームページや医師紹介欄などで、
医師の資格や所属学会を確認するのも有効です。
以下のような記載があれば、
不整脈の診療に力を入れている医師である可能性が高いです:
- △△不整脈心電学会 専門医/認定医/所属
- □□循環器学会 専門医/認定医/所属
- ○○心臓病学会 専門医/認定医/所属
これらは、循環器分野での専門性を示す資格や所属です。
✅不整脈に詳しい医師に相談するメリットは?
「どこの病院でも同じでは?」と思われるかもしれませんが、
不整脈を専門とする医師に相談することで、
以下のようなメリットがあります。
✅ 専門的な判断と対応がスムーズに進みやすい
- 必要な追加検査の判断(ホルター心電図・心エコー・採血など)
- 結果をふまえた治療方針の決定(薬物治療・経過観察・紹介先の判断 など)
不整脈に慣れている医師であれば、
こうしたプロセスがよりスピーディーに進む可能性があります。
✅ 高度な医療機関への連携もスムーズ
すべての検査や治療がその場で完結するわけではありませんが、
カテーテルアブレーションや心臓CTなど高度医療が必要な場合でも、
適切な専門施設や総合病院への紹介がスムーズに行われやすい、
という利点が期待できます。
✅ 受診前に電話予約するのがおすすめ
希望する医師の診療日や予約制かどうかは、
事前に電話で確認しておくと安心です。
特に専門外来や予約優先制をとっている医療機関では、
予約なしで行くと診察できないこともあります。
心房細動や心房粗動の心電図で検討される追加検査

※すべての検査が必須というわけではありません。
症状の有無、年齢や生活習慣、持病、
そして医師の判断により必要なものを選択していきます。
※下記に記載している所要時間、費用はあくまで目安です。
実際には、医療機関や医療保険の内容によって変わることがあります。
🔹 安静時心電図検査
• 所要時間:1分程度
• 自己負担の目安:約130〜400円
健康診断と同じ検査ですが、タイミングを変えて再度行うことで、
異常の再現性や変化を確認します。
多くの場合、その日のうちに結果の説明が可能です。
🔹 胸部レントゲン検査
• 所要時間:5分程度
• 自己負担の目安:約150〜500円
胸部のX線撮影によって、心臓の大きさや形、
肺の状態などを確認できます。
簡便で広く行われている検査で、
心不全の有無や肺の病気の除外にも役立ちます。
結果説明は当日中が一般的です。
🔹 ホルター心電図検査(24時間心電図)
• 所要時間:1日(最低8時間以上装着)
• 自己負担の目安:約1,750〜5,400円
小型の心電図機器を身体に装着し、
日常生活中の心電図変化を連続記録します。
シャワー対応機種もありますが、入浴(湯船)はできません。
結果の解析は通常2〜3日以内に行われます。
🔹 心臓超音波検査(心エコー)
• 所要時間:20~30分程度
• 自己負担の目安:約880〜2,800円
心臓の動きや弁の状態、筋肉の厚みなどを、
リアルタイム画像で確認します。
放射線は使用せず、身体に害はありません。
検査当日に説明が受けられることもあります。
🔹 血液検査
• 所要時間:3分程度
• 自己負担の目安:約1,200〜3,600円
電解質異常、甲状腺機能、貧血、心不全の指標(BNPなど)を調べます。
結果は当日〜1週間以内に説明されることが多いです。
🔹 イベントレコーダー
• 所要時間:数日間のレンタルなど
自覚症状が出たときに、ご自身で機器を身体にあてて、
心電図を記録する方法です。
皮下に埋め込むタイプで、
自動記録する機器などもあります(専門的な対応が必要です)。
治療が必要かどうかは「脳梗塞などのリスク」で決まります
心房細動や心房粗動の治療方針は、
単に「不整脈があるかどうか」だけでは決まりません。
特に重要なのは、「脳梗塞などを起こしやすいかどうか」というリスク評価です。
✅ CHA₂DS₂-VAScスコアとは?
脳梗塞の発症リスクを評価するために、
医療現場で使われているのがCHA₂DS₂-VAScスコアなどです。
これは、以下のような要素を点数化して判断する指標です:
- 年齢
- 高血圧・糖尿病などの持病
- 心不全の既往
- 性別(女性は1点加算)
- 脳梗塞や血栓の既往 など
✅ リスクが高いと判断された場合
抗凝固薬(血液をサラサラにする薬)の服用を、
勧められることがあります
症状が強い、または薬が合わない場合には、
アブレーション治療(カテーテル治療)を検討することもあります
✅カテーテルアブレーションって何?
アブレーションは、カテーテルを使って、
異常な電気信号の出どころを焼灼したり、冷却冷凍する手術治療です。
特に若年者や症状が強い方にとって、根本治療の選択肢として有力です
再発の可能性はありますが、
薬に頼らない生活ができるようになる場合もあります
※アブレーションの適応は医師の判断によって決まります。
全員に必要な治療ではありません。
まとめ:心房細動・心房粗動は放置せず、専門医受診を
- 見た目には軽そうでも、脳梗塞のリスクが高まる不整脈です
- 自覚症状がなくても、診断されたら早めに循環器専門医に相談検討を
- 必要な検査や治療は、あなたの症状・リスク・生活背景によって異なります
- 医師と一緒に、自分に合った検査・治療方針を考えていきましょう
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
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