心筋梗塞の心電図特徴|時間変化、時系列、梗塞部位推定などまとめ

心電図検査は、痛みを伴わず、
比較的簡便に行える心臓の検査です。

医療現場、日常診療や救急の場面で
目にする機会も多いのではないでしょうか。

一方で、

  • 心筋梗塞を疑って心電図検査を行ったけど、所見が多くて判断に迷う
  • 心筋梗塞に特徴的な心電図所見はどれなのかわからなくなる
  • 強い胸痛の訴えがあるのに、心電図が「異常なし」に見える
  • 時間変化とともに心電図所見も変化していくが、どう理解すればよいのか

といった疑問や戸惑いを感じることも少なくありません。

本記事では、こうした疑問に対して、
循環器専門医の立場から

心筋梗塞における心電図の特徴や、
時系列での心電図変化を含めて整理し、

さらに梗塞部位の推定や鑑別診断といった
少し踏み込んだ内容を、

わかりやすく解説していきます。

本記事は、下記:親ページの続きとして書きました。
ご興味があれば、最初から読んでみてくださいね。

親ページ:心臓疾患から引ける心電図所見まとめ|不整脈一覧

※本サイトの内容は、医療従事者向けの学習・情報整理を目的としたものです。
診断や治療を目的としたものではありません。
※医療情報は日々更新されるため、実際の医療現場では最新のガイドラインや一時情報をご確認ください。

心筋梗塞とは?

心臓の筋肉(心筋:myocardium)は、
冠動脈からの血液によって栄養されています。

この冠動脈が閉塞すると、
心筋は血流不足となり壊死に陥ります。

この状態を
心筋梗塞(myocardial infarction:MI)と呼びます。

特に急性期、
急性心筋梗塞(acute myocardial infarction:AMI)では、

  • 胸痛
  • 特徴的な心電図所見
  • 血清心筋逸脱酵素(CKなど)の上昇

といった所見をもとに診断されます。

急性心筋梗塞は、
心電図が診断にもっとも役立つ疾患であり、

胸痛を主な訴えとして来院した患者さんでは、
まず最初に行われる検査です。

心筋梗塞を専門的に診療する診療科は
循環器科・循環器内科となります。

心筋梗塞が心配な方は、
お近くの循環器科・循環器内科受診を検討しましょう。

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冠動脈の走行

冠動脈(coronary artery)は、
大動脈の付け根から枝分かれして

心臓の表面を走行しており:

  • 右冠動脈(right coronary artery:RCA)
  • 左冠動脈主幹部(left main trunk:LMT)

に分かれます。

さらに左冠動脈主幹部(LMT)からは、

  • 左前下行枝(left anterior descending artery:LAD)
  • 左回旋枝(left circumflex artery:LCX)

が分岐し、心臓に血液を届けます

冠動脈灌流域(血液を届けている場所)
右冠動脈心臓の下側および右心室
左前下行枝心臓の前面
左回旋枝心臓の左側

それぞれの血管が閉塞すると、次のような梗塞を起こします。

  • RCA閉塞:下壁梗塞(inferior MI)
  • LMT閉塞:左冠動脈主幹部梗塞(LMT infarction)
  • LAD閉塞:前壁中隔梗塞(anteroseptal MI)
  • LCX閉塞:側壁梗塞(lateral MI)

心筋梗塞の心電図|時系列、時間変化

急性心筋梗塞患者の約半分は、
来院時の心電図のみで診断が可能です。

一方で、残りのケースでは
典型的な心電図所見を示さないこともあります。

急性心筋梗塞の特徴として、
時系列で心電図所見が変化します。

そのため、病歴の聴取や採血の後に
再度心電図を記録すると、

わずかな時間差でも
変化がより明瞭になることが少なくありません。

心電図の変化は、次のように推移します:

発症直後

T波増高のみを認めることがあります

数時間以内

ST上昇が出現します

発症後6~12時間

異常Q波が出現します

発症後12~24時間

T波が陰性化し始めます

数日以降

ST上昇は消失していきます

通常、ST上昇は1週間以内にほぼ消失します。

しかし、1週間を経過しても
ST上昇が持続する場合は、

心室瘤(ventricular aneurysm)形成が疑われます。

再灌流療法の有無にかかわらず、
異常Q波は約1/3の症例で1年以内に消失します。

👇各心電図所見の一般的な解説はこちら(リンク)

心電図所見からみた時期分類

超急性期
(hyperacute)

T波増高を認める時期

急性期
(acute)

T波が陰性化しつつST上昇を認める時期

時期不明
(age indeterminate)

ST上昇は消失したがT波異常が残る場合

陳旧性
(old)

T波異常も消失し、異常Q波のみを認める場合

Q
急性心筋梗塞なのに、心電図が「異常なし」はありますか?
A

急性心筋梗塞の約1割では、
来院時の心電図が正常です。

特に発症直後に来院したケースでは
典型的な所見を示さず、

診断が困難なことが少なくありません。
そのため:

  • 再度心電図を記録する
  • ニトログリセリンを1錠舌下投与し、
    胸痛への効果を確認する

ことなどが重要です。

急性心筋梗塞では、
ニトログリセリンは無効であることもあり、

心電図上、T波増高やST上昇が
より明瞭になる場合があります。

心筋梗塞における心電図所見|特徴・基準など

異常Q波(abnormal Q wave)

① 異常Q波の意味

以前は、異常Q波を

  • 認める場合:貫壁性梗塞(transmural MI)
  • 認めない場合:非貫壁性または心内膜下梗塞(subendocardial MI)

と分類されていました。

しかし、病理所見と一致しないことが多いため、
近年では、異常Q波を

  • 認める場合:Q波梗塞(Q wave MI)
  • 認めない場合:非Q波梗塞(non-Q wave MI)

と呼ばれています。

また、異常Q波を示す誘導が多いほど、
梗塞に陥った心筋の範囲は広いと考えられています。

② 異常Q波の基準

正常でも心室中隔の脱分極を反映する
小さなQ波をⅠ, aVL, V5-6誘導で認める

異常Q波は:

  • Q波の幅が0.03秒以上(0.75mm以上)もしくは、
  • Q波の深さがR波高の1/4以上

の場合、判断されます。

ただし、いくつかの誘導では注意が必要です:

aVR誘導では、正常でも幅の広いQ波を示すため、
異常Q波とはしません

Ⅲ誘導では、II誘導やaVF誘導に異常がなければ
Q波があっても異常Q波とはしません。

aVL誘導では、Q波の深さがR波高の1/2以上のときのみ、
異常Q波と判断します。

③ 鑑別診断

異常Q波は、心筋梗塞以外の疾患でも
見られることがあります。

たとえば、心筋症では、
異常Q波を認めることがあります。

ただし、心筋梗塞との鑑別が難しい場合には、
まず心筋梗塞を疑うことが大切です。

・体型や心臓の位置による影響

やせ型体型肺気腫のある患者さんでは、
心臓に明らかな異常がなくても

心臓が立位となり、
胸部誘導V1(場合によってはV2)で

QSパターンを示すことがあります。

この場合、心筋梗塞とは異なり、
ST-T異常を伴わないことが多いという点が

鑑別のポイントになります。

・左脚ブロックとの関係

左脚ブロックでは、約6割のケースで
V1~V3誘導がQSパターンを示します。

しかし、V4誘導までQSパターンが及ぶ場合は、
心筋梗塞を疑う必要があります

また、左脚ブロックでは、
I、aVL、V5、V6誘導にQ波がまったくないのが正常であり、

ごく小さなQ波であっても、
認められた場合は異常と判断します。

Tips !

心電図だけで、異常Q波がMIによるものかどうかを
判断するのは難しいことも多いため、

疑わしい場合は、
心エコー検査を行うことが重要です。

👇各心電図所見の一般的な解説はこちら(リンク)

ST上昇(ST elevation)

① 心筋梗塞におけるST上昇の意味

急性心筋梗塞では、
T波増高に続いて、

発症数時間以内にST上昇が出現します。

ST上昇がみられる時期は急性期にあたり、
一般的には入院が必要となります。

特に、胸痛とともに、
著明なST上昇が長時間持続する場合は、

心破裂の危険性が高いとされています。

通常、ST上昇は1週間以内にほぼ消失しますが、
1週間を経過しても明らかなST上昇が残る場合は、

心室瘤の形成が疑われます。

② 心筋梗塞におけるST上昇の特徴

J点でのST上昇が

  • 肢誘導で1mm以上
  • 胸部誘導で2mm以上

の場合、異常なST上昇と判断します。

急性心筋梗塞に特徴的なST上昇は、

ST部分からT波へ移行するカーブが
上に凸となる点です。

③鏡像変化(mirror image)

急性心筋梗塞では、

ST上昇の反対側の誘導に
ST低下
(鏡像変化)を示すことがあります:

I、aVL誘導で
ST上昇を認める場合

II、III、aVF誘導でST低下

I、III、aVF誘導でST上昇を認める場合

I、aVL誘導でST低下

という対応関係になります。

Tips !

下壁梗塞では、
II、III、aVF誘導のST上昇が
1mm前後と軽度なことがあり、

その場合、I、aVL誘導のST低下の方が
目立つことがあります。

I、aVLや胸部誘導で
ST低下を認めたときは、

II、III、aVF誘導にST上昇がないかを
必ず確認します。

③ 鑑別診断

急性心筋梗塞と鑑別が必要な疾患として、
急性心膜炎(acute pericarditis)があります。

心膜炎のST上昇は、

  • STからT波へ移行する部分のカーブが上に凹(concave)
  • 鏡像となるST低下を示さない
  • 異常Q波を認めない

という特徴があります。

👇各心電図所見の一般的な解説はこちら(リンク)

T波増高(tall T wave)

① 心筋梗塞におけるT波増高の意味

発症直後の急性心筋梗塞では、
T波増高のみを認めることがあります。

その後、数時間以内に
ST上昇を伴うようになります。

T波増高を認める時期は
超急性期(hyperacute)と呼ばれます。

発症12〜24時間後には
T波は陰性化し始めます。

② T波増高の基準と鑑別診断

一般的に、

  • 肢誘導で5mm以上
  • 胸部誘導で10mm以上

のT波高をT波増高と判断します。

早期再分極との鑑別

健常人、特に若年男性では、

V2〜V5誘導で3mm前後のST上昇
を示すことがあり、

これを早期再分極(early repolarization)と呼びます。

早期再分極では
心膜炎と同様に凹型のST上昇を示し、

鏡像となるST低下を示しません

・急性心筋梗塞と早期再分極の違い

急性心筋梗塞でも、
発症直後に来院した症例では、

T波増高が軽度で
見逃されやすいことがあります。

胸痛を主訴に来院した患者では:

  • 再度心電図を記録する
  • ニトログリセリンを1錠舌下投与し、胸痛への効果を確認

ことが重要です。

急性心筋梗塞では、
ニトログリセリンは無効であるケースも多く、

T波増高がより明瞭になることがあります。

Q
心臓疾患以外で、T波増高がみられることがありますか?
A

T波増高を示す
もう一つの重要な病態に、

高カリウム血症(hyperkalemia)があります。

高カリウム血症では:

  • 幅が狭い
  • 尖った

T波が特徴的です。

👇各心電図所見の一般的な解説はこちら(リンク)

心筋梗塞|心電図での梗塞部位の診断

異常Q波やST上昇を示す誘導から、
どの部位に心筋梗塞が起きているかを

推定することができます。

心筋梗塞部位と心電図の誘導

ST上昇・異常Q波を示す誘導心筋梗塞部位
V1〜V4誘導前壁中隔梗塞(anteroseptal MI)
V1〜V6誘導広範囲前壁梗塞(extensive anterior MI)
I、aVL、V5、V6誘導側壁梗塞(lateral MI)
II、III、aVF誘導下壁梗塞(inferior MI)
V1、V2誘導で幅広く高いR波
(RV1 ≥ 0.04秒=1mm、かつ R/SV1 > 1)
※後壁梗塞(posterior MI)

※後壁梗塞について

後壁梗塞では、異常Q波の代わりに、
V1・V2誘導で幅広く高いR波を示します。

  • V1でR波幅が0.04秒(1mm)以上
  • R/SV1 > 1

の場合、後壁梗塞を疑います

健常例や右室肥大でも、
R/SV1 > 1を満たすことがあります。

ただし、後壁梗塞は
下壁梗塞または側壁梗塞を合併することが多く

II、III、aVF もしくは
I、aVL、V5、V6

異常Q波やST上昇を伴うことが多い点が特徴です。

後壁梗塞とST低下の関係

後壁梗塞の急性期では、
V1〜V4誘導でST低下を示し、

非Q波梗塞や心筋虚血と
誤認されやすいことがあります。

しかし、下壁または側壁梗塞を
合併することが多く

II、III、aVF または
I、aVL、V5、V6

ST上昇を伴います。

ST低下の方が目立ちやすいため、
ST低下を認めた場合は、

他の誘導にST上昇がないか必ず確認します。

👇各心電図所見の一般的な解説はこちら(リンク)

心筋梗塞部位と責任冠動脈

一般的に、

  • 前壁中隔梗塞・広範囲前壁梗塞
    左前下行枝(LAD)閉塞
  • 側壁梗塞
    左回旋枝(LCX)閉塞

と考えます。

下壁梗塞と責任血管

下壁梗塞は、
右冠動脈(RCA)閉塞が多いですが、

左回旋枝(LCX)が
下壁まで灌流する場合もあります。

この場合、下側壁梗塞となり、

II、III、aVFに加えて
I、aVL、V5、V6

にも異常Q波やST上昇を認めます。

後壁梗塞と責任血管

右冠動脈(RCA)または左回旋枝(LCX)が
後壁を灌流しているため、

後壁梗塞は、
下壁または側壁梗塞を合併することが多くなります。

  • 右冠動脈(RCA)閉塞
    → II、III、aVFにST上昇
  • 左回旋枝(LCX)閉塞
    → I、aVL、V5、V6に異常Q波やST上昇
Q
心電図の責任血管診断、感度はどれくらいですか?
A

心電図による診断感度は、
梗塞部位によって異なります

  • 右冠動脈(RCA)閉塞による下壁梗塞
    約60%
  • 左前下行枝(LAD)閉塞による前壁中隔梗塞
    90%以上
  • 左回旋枝(LCX閉塞)による側壁・後壁梗塞
    約50%

特に、左回旋枝(LCX)閉塞による心筋梗塞は
心電図診断が最も難しいとされています。

対角枝(diagonal branch)閉塞による前壁梗塞

左前下行枝(LAD)の枝である
対角枝のみが閉塞すると、

中隔を含まない前壁梗塞を起こします。

この場合、
梗塞範囲は比較的小さく、

異常Q波やST上昇は
I、aVL誘導(ときにV3、V4)のみに認めます

R波増高不良

胸部誘導では、

V1からV4に向かって
R波高は徐々に高くなるのが正常です。

V3でR波高が1.5mm以下の場合など、
R波増高不良と呼びます。

この所見は:

  • 前壁中隔梗塞で早期に再灌流が得られた症例
  • 対角枝閉塞例

で認めることがあります。

ただし、

  • やせ型体型
  • 肺気腫
  • その他

でも同様の所見を示すことがあり、
心筋梗塞に特異的な所見ではありません

👇各心電図所見の一般的な解説はこちら(リンク)

右室梗塞(RV infarction)

右心室は、右冠動脈(RCA)から分岐した
右室枝によって栄養されています。

そのため、RCA近位部の閉塞による
下壁梗塞では、

右室梗塞を合併することが
多いとされています。

心電図所見の特徴

右室梗塞では、心電図上、

  • II、III、aVF誘導のST上昇 に加えて
  • V1誘導でもST上昇

を認めることがあります。

ただし、通常の12誘導心電図のみでは
診断感度は低いため、

右室梗塞の診断には
追加誘導が重要になります。

V4R誘導の重要性

下壁梗塞のケースは、
V4R誘導(V4を左右反対にして右胸壁に装着)

を記録するようにします。

V4R誘導で1mm以上のST上昇を認めた場合、
右室梗塞と診断します。

この方法により、約90%の症例で
右室梗塞を診断可能ですが、

V4RのST上昇は数日以内に
消失することが多い点に注意が必要です。

👇各心電図所見の一般的な解説はこちら(リンク)

以上となります。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

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